「既得権益の何が悪い」——たまにこう言い返してくる人間がいる。真面目に答えよう。
既得権益そのものは悪くない。努力して築いた地位を守ること自体は当然の権利だ。問題はそこではない。
悪いのは、法律で他人の参入を禁止していることだ。
自分がうまくやって儲けるのは自由だ。だが「自分より安く・早く・便利にやろうとする者を、法律で禁止する」のは自由ではない。それは他人の自由を奪っている。
タクシー、医療、農地、漁業権、電波、酒販、薬局、放送、士業。この国は「参入するには許可が要る」産業だらけだ。そして許可を出す側と、許可を持っている側は、たいてい同じ人たちで固まっている。
結果どうなるか。新しい会社が生まれない。生まれないから、あなたに転職先の選択肢がない。選択肢がないから、賃金が上がらない。既得権益は他人事ではない。あなたの給与明細の話だ。
📊 悪いのは利益ではなく参入を法律で禁じていること
📊 参入がないと新しい雇用先が生まれない
📊 雇用先が増えないと賃金の競り上げが起きない
📊 日本のユニコーンは8社/米国655社
📊 実質賃金は30年ほぼ横ばい——原因はここにある
この問いに答えるには、既得権益を2種類に分ける必要がある。
| 種類 | 中身 | 評価 |
|---|---|---|
| 実力型 | 良い製品を作って市場で勝った | ✅ 問題なし |
| 実力型 | 先行投資して規模の経済を得た | ✅ 問題なし |
| 実力型 | 特許を取って一定期間独占 | ✅ 制度上の正当な保護 |
| 参入禁止型 | 法律で新規参入を禁じている | ❌ 他人の自由の侵害 |
| 参入禁止型 | 免許・許認可の総量を制限 | ❌ 価格を人為的に吊り上げ |
| 参入禁止型 | 業界団体の同意を要件化 | ❌ 競争相手に拒否権を与える |
注:批判の対象は下3つ。上3つは市場競争の正当な結果である
実力型は、消費者が自発的に選んだ結果だ。嫌なら他を選べる。
参入禁止型は違う。選ぼうにも、選択肢が法律で存在を禁じられている。
ライドシェアが禁止されていた間、あなたはタクシーを選んだのではない。他に選択肢がなかっただけだ。これを「自由な市場での勝利」とは呼ばない。
必ず出てくる反論だ。安全確保が目的なら、参入禁止ではなく安全基準の設定で足りる。
基準を満たせば誰でも参入できるのが安全規制。基準を満たしても既存事業者が反対すれば入れないのが、参入禁止だ。この2つを混同させることで、既得権益は正当化されてきた。
具体的に見ていく。「日本 既得権益 だらけ」という検索が示す感覚は、正確だ。
| 業界 | 障壁の形 | 結果 |
|---|---|---|
| タクシー | 営業区域・台数規制、ライドシェアの制限 | 供給不足と価格高止まり |
| 医療 | 医学部定員の管理、開業規制の議論 | 診療科と地域の偏在 |
| 薬局 | 対面原則が長く維持された | オンライン化の遅れ |
| 放送・電波 | 比較審査で割当、オークション不採用 | 新規参入がほぼ不可能 |
| 農業 | 農地法による企業の農地所有制限 | 大規模化・法人化の遅れ |
| 漁業 | 漁業権の実質的な優先配分 | 養殖への企業参入が困難 |
| 宿泊 | 民泊の年間180日制限 | Airbnb物件が8割減少 |
| 酒類販売 | 免許制 | 流通形態の固定化 |
| 士業 | 独占業務の広い設定 | 価格競争が起きにくい |
| 港湾・物流 | 慣行的な調整 | 効率化の遅れ |
注:規制の目的自体が不当とは限らないが、結果として参入障壁になっている
見ていくと、必ず同じ構造が出てくる。
① 「安全」「秩序」「品質」を理由に規制を作る
② 規制の運用に業界団体の関与を組み込む
③ 業界団体が新規参入に事実上の拒否権を持つ
④ 所管官庁は裁量権が増えるので反対しない
⑤ 政治家は票と献金を得るので触れない
⑥ 消費者は存在しない選択肢を惜しめない
⑥が最も重要だ。失われた選択肢は、そもそも見えない。存在しなかったサービス、生まれなかった企業、なかった転職先を、人は惜しめない。
だから既得権益は世論の反発を受けずに温存される。被害が可視化されないからだ。
ここが本題だ。既得権益は「ずるい人がいる」という道徳の話ではない。あなたの手取りの話だ。
賃金が上がる最大の要因は、「他社があなたを高く買おうとすること」だ。
新しい会社が生まれない社会では、この競り上げが起きない。ユニコーン8社の国では、高給を出して人を奪いにくる新興企業が、そもそも存在しない。
規制で守られた業界では、効率の悪い事業者も退場しない。
本来なら、生産性の低い企業が退出し、その人材が生産性の高い企業へ移ることで、社会全体の賃金が上がる。この新陳代謝が止まっている。
参入がないので価格競争が起きない。あなたが払う料金は、競争があった場合より高い。
これは実質的な増税だ。しかも税と違って、公共サービスとして戻ってこない。
日本の開業率は長らく5%前後で推移しており、欧米の10%前後と比べて明確に低い。廃業率も低い。
これは「安定している」のではなく「動いていない」ということだ。入ってこないし、出ていかない。そういう経済で賃金が上がる理由がない。
批判するなら、相手の言い分も検討する。典型的な4つの主張に答える。
それなら品質基準を公開し、満たした者は誰でも参入させればいい。
基準を満たしても入れないなら、それは品質の話ではなく数の話だ。守っているのは品質ではなく、価格である。
害した実例を出してほしい。ライドシェアが解禁された国で、消費者が不利益を被ったという明確な証拠があるのか。
事故率も価格も待ち時間も、多くの国で改善している。不利益を被ったのは消費者ではなく、既存事業者だ。
この論法は強力だ。だが実際には逆になっている。
地方こそ交通が不足し、医療が不足し、店舗が減っている。規制が守っているのは、その地方で既に営業している事業者であって、地方住民ではない。
守っているのは、既にその業界にいる人の雇用だけだ。
生まれなかった産業の雇用は、統計に出てこない。守られた雇用は見えるが、生まれなかった雇用は見えない。この非対称性が、規制擁護論の根拠になっている。
批判で終わらせない。実際に壊す方法を挙げる。
| 手段 | 中身 | 効果 |
|---|---|---|
| サンセット条項 | 全規制に5年の有効期限を設ける | 存続には再立法が必要になり、常に検証が入る |
| 規制影響評価の義務化 | 新規制に参入への影響の定量評価を必須化 | 「安全のため」の濫用を抑止 |
| 業界団体の関与排除 | 許認可の審査から利害関係者を外す | 競争相手が拒否権を持つ構造を解消 |
| 規制不適用特区 | 一都市で原則すべての参入規制を停止 | 実データで安全性の議論に決着をつける |
| 電波オークション | 割当を入札制に変更 | 数千億円規模の国庫収入と新規参入 |
| ネガティブリスト化 | 禁止行為だけを列挙し他は自由に | 許可主義から脱却する |
注:いずれも国内外で提案・実施例のある手法
規制を廃止するのは政治的に極めて難しい。廃止には反対する集団がいるが、賛成する集団はいないからだ。
だが「何もしなければ自動的に失効する」という設計なら、話が逆になる。存続させたい側が、存続の必要性を立証しなければならない。立証責任が入れ替わる。
これは制度設計上の一手で、政治的コストが最も低い。
全国一斉の改革は必ず潰される。だが一都市なら、抵抗の規模が小さい。
そして実際に事故が起きなければ、「危険だ」という主張は反証される。議論ではなくデータで決着をつけられる。
既得権益を批判するとき、「ずるい」「不公平だ」という道徳の言葉を使うのは間違いだ。
道徳の話にすると、必ず「彼らも生活がある」という反論で止まる。そして止まる。30年間、それで止まってきた。
これは経済の問題だ。参入が禁止されている国では、新しい企業が生まれない。生まれないから転職先がない。転職先がないから賃金が上がらない。
① 悪いのは利益ではなく参入を法律で禁じていることだ
② 実力による優位と、参入禁止による優位は全く違う
③ 「安全のため」なら基準の設定で足りる。禁止は不要
④ 失われた選択肢は見えないので被害が可視化されない
⑤ 参入がないから賃金の競り上げが起きない
⑥ 最も効く一手はサンセット条項である
既得権益の何が悪いか。あなたの給料が上がらない理由が、それだ。
この記事のテーマについて、検索でよく問われる疑問に答えておく。
利益を得ること自体は悪くありません。悪いのは、法律で他人の参入を禁止していることです。実力で市場に勝つのと、競争相手の存在を法的に禁じるのは全く違います。
必要です。ただし安全確保が目的なら、参入禁止ではなく安全基準の設定で足ります。基準を満たしても既存事業者の反対で入れないなら、それは安全規制ではなく参入規制です。
タクシー・医療・薬局・電波・農地・漁業権・民泊・酒販・士業など、参入に許可が必要で、その運用に業界団体が関与している産業が広範に存在します。
直結しています。賃金が上がる最大の要因は他社が高く買おうとすることですが、新規参入が禁じられていると、その競り上げ役の企業が生まれません。日本のユニコーンは8社です。
最も効果的なのはサンセット条項(全規制に5年の有効期限を設ける)です。廃止には反対集団がいますが、自動失効なら存続させたい側に立証責任が移ります。
既存業界の雇用は失われます。ただし生まれなかった産業の雇用は統計に出ません。守られた雇用は見え、生まれなかった雇用は見えない——この非対称性が規制擁護論の根拠になっています。
既得権益の問題を整理してきた。要点をまとめる。
① 悪いのは利益ではなく法律で参入を禁じていることだ
② 実力型と参入禁止型を混同させることで正当化されてきた
③ 安全確保が目的なら基準の設定で足りる
④ 参入がないので新規企業も転職先も賃金上昇も起きない
⑤ 失われた選択肢は見えないので、被害が可視化されない
⑥ 最も効く一手はサンセット条項と規制不適用特区である
既得権益は道徳の話ではない。給与明細の話だ。誰かの参入が禁止されているぶん、あなたの給料が上がっていない。
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