平日の午前9時。会社を半休して病院に行ったら、待合室が老人で埋まっていた。その光景にムカついたなら、あなたの感覚は正常だ。
彼らは急いでいない。時間はいくらでもある。世間話をしながら順番を待ち、診察が終わればまた来週来る。そして窓口で払うのは原則1割。あなたが3割払って並んでいる、その横で。
数字を出す。75歳以上の一人当たり年間医療費は約90〜95万円。15〜44歳の主な現役世代は約16万円だ。約6倍使っている。
そして使う額が6倍なのに、窓口負担は現役の3割に対して原則1割。使う量が多い側ほど安い。市場原理の完全な逆をやっている。
「歳を取れば病気が増えるのは当たり前だろ」——その通りだ。問題は量ではなく、その費用を誰が払っているかである。後期高齢者医療制度の財源のうち、本人の保険料はたった10%。残りの90%は税金と現役世代の健康保険料で埋めている。
この記事では、なぜ病院が老人で埋まるのか、その費用を誰が負担しているのかを、金額と制度の両面から全部並べる。ムカついている理由に、正確な名前を付けるための記事だ。
病院老人多すぎて俺の順番一生回ってこなくてわろたね
— ゆうげき (@ygk_fe) February 6, 2024
暇すぎてもう1時間半漫画読んでる
📊 75歳以上の一人当たり年間医療費:約90〜95万円
📊 15〜44歳(主な現役世代)の一人当たり年間医療費:約16万円
📊 その差:約6倍
📊 窓口負担:75歳以上は原則1割/現役世代は3割
📊 後期高齢者医療の財源に占める本人保険料:わずか10%
「老人が病院に行きすぎ」という感覚は、印象論ではなく制度から説明できる。行けば行くほど得をするように設計されているからだ。
医療費が1回3,000円かかるとして、3割負担なら窓口で900円払う。1割負担なら300円だ。同じサービスが3分の1の値段で買える。
経済学的に言えば、価格が下がれば需要は増える。当たり前の話だ。300円で医師に診てもらえて薬までもらえるなら、多少の不調でも行く。これは老人の性格の問題ではなく、価格設定の問題である。
さらに高額療養費制度があり、月の自己負担には上限が設けられている。低所得の高齢者なら月8,000円程度で頭打ちになるケースもある。つまり一定額を超えたら、それ以上いくら受診しても実質タダということだ。
現役世代が平日の午前に病院へ行くには、半休を取るか、有給を消化するか、収入を削るしかない。受診の実コストには時間が含まれる。
一方、退職した高齢者にとって時間コストはほぼゼロだ。2時間待っても失うものがない。むしろ人と話せる場として機能している面すらある。この非対称が、待合室の年齢構成をそのまま説明する。
日本の外来受診回数は年間1人あたり約11〜12回で、OECD平均(約6回)の倍近い。世界的に見ても異常な多さだ。その大半を押し上げているのが高齢者の定期通院である。
血圧、糖尿病、整形外科——週1〜2回の通院が積み重なる。外来費用は医療費全体の約30〜35%を占める。「ちょっと様子を見に」の積み重ねが、兆円単位の支出になっている。
ここからが本題だ。老人が病院に行くこと自体は、正直どうでもいい。問題は、その請求書があなたに回ってきていることである。
あなたの給与明細に「後期高齢者支援金」という項目は無い。「健康保険料」という一行にまとめられているからだ。
だがその中身を分解すると、健康保険料の約15〜20%が後期高齢者支援金として抜かれている。あなたが自分の医療のために払っているつもりの金の5分の1前後が、75歳以上の医療費に直行している。
| 項目 | 年間総額 | 年収500万円の負担額 |
|---|---|---|
| 後期高齢者支援金(75歳以上向け) | 約7.5兆円 | 年間約4〜5万円 |
| 前期高齢者納付金(65〜74歳の医療費調整) | 約5.5〜6兆円 | 年間約3〜4万円 |
| 介護納付金(40〜64歳の介護保険拠出) | 約3.5兆円 | 年間約4〜4.5万円 |
| 合計 | 約16〜17兆円/年 | 年間約11〜13.5万円 |
※概算値。年度・加入する健保組合等により変動。介護納付金は40歳以上のみ。
年収500万円の会社員なら、年間11〜13.5万円を高齢者の医療・介護のために払っている。月にして約1万円。この金は自分の治療には一切使われない。
-【現役世代の出血が止まらない】医療費47兆円突破、「削るための改革」ではなく「守るための選別」を-
— おときた駿 / 元参議院議員、しゃほさげフェニックス (@otokita) June 17, 2025
改めて、日本の医療費上昇がいかに深刻化について述べておきたいと思います。
最新の政府データによると、日本の総医療費はついに47兆円を突破しました。… pic.twitter.com/seSodFtgZp
「高齢者の負担を上げるなんて冷酷だ」と言う人間は、他国が何をしているか知らない。
| 国 | 高齢者の自己負担 | 評価 |
|---|---|---|
| 日本 | 原則1割(2022年改革で一部2割に拡大) | OECD中でも最低水準 |
| アメリカ | メディケア加入者も20%負担(限度額なし) | 高齢者でも相応の負担 |
| ドイツ | 法定疾病保険で10〜20%程度の一部負担 | 現役と同等の負担構造 |
| 韓国 | 外来20〜60%程度(入院10〜20%) | 日本より明確に重い |
| スウェーデン | 受診1回あたり定額(約1,500〜2,000円)・年間上限あり | 定額で普遍性を担保 |
※制度設計は国により大きく異なるため単純比較はできないが、日本の高齢者自己負担が国際的に軽い部類であることは共通した指摘である。
日本だけが突出して高齢者に甘い。そしてその甘さの費用を、現役世代の保険料で埋めている。他国は「高齢者にも相応に払わせる」ことで制度を維持しているのに、日本は「現役から取れば済む」で済ませてきた。
答えは単純だ。高齢者の票のほうが多く、しかも投票率が高いからである。
| 年齢層 | 有権者数(概算) | 投票率 | 政治的影響力 |
|---|---|---|---|
| 65歳以上 | 約3,800万人(有権者の約35%) | 約70〜75% | 圧倒的 |
| 50〜64歳 | 約2,800万人(約25%) | 約65〜70% | 高い |
| 30〜49歳 | 約3,200万人(約29%) | 約40〜55% | 低い |
| 18〜29歳 | 約1,200万人(約11%) | 約30〜35% | 極めて低い |
自分の窓口負担を上げる政治家に、高齢者が票を入れるわけがない。民主主義の多数決が、そのまま現役世代への課税装置として機能している。これは陰謀ではなく、単なる算数だ。
待合室の老人個人に怒っても何も変わらない。彼らは制度が用意したインセンティブに合理的に反応しているだけだからだ。1割で受診できるなら受診する。誰でもそうする。
変えるべきは制度のほうだ。具体的には次の3つに集約される。
① 高齢者の窓口負担を原則2〜3割へ引き上げる——支援金を年2〜3兆円削減可能。現役世代の負担が月5,000〜10,000円軽くなる
② 資産に応じた自己負担の設計——貯蓄・不動産を持つ高齢者には相応の負担を。本当に困窮する層だけ1割以下に
③ 多剤処方の適正化とジェネリック義務化——薬剤費を10〜20%削減可能
使った人が相応に払う、という当たり前に戻せというだけの話だ。払わない高齢者は切り捨てろ。それを冷酷と呼ぶなら、現役世代から黙って月1万円抜き続ける現行制度のほうがよほど冷酷である。
制度は当面変わらない。だから並行して、自分の負担を制度的に減らす手を打つ必要がある。社会保険料は働き方を変えるだけで年間70万円規模で変わる。
⇒社会保険料をブッちぎりで下げる5つの方法【マイクロ法人・iDeCo・合法】
日本の医療制度には世界的にも珍しい特徴がある。フリーアクセスだ。紹介状なしで、どの医療機関でも、いつでも受診できる。
これは患者の利便性という点では優れている。だが同時に、受診行動を制御する仕組みが存在しないということでもある。
イギリスのNHSでは、患者はまず登録した家庭医(GP)を受診する。専門医にかかるにはGPの紹介が必要だ。この「ゲートキーパー機能」が、不必要な専門医受診と重複検査を防いでいる。
ドイツやオランダにも類似の仕組みがある。日本にはない。患者は自己判断で内科にも整形外科にも眼科にも行ける。結果として同じ症状で複数の医療機関にかかり、同じ検査を何度も受け、同種の薬を重複して処方される。
複数の医療機関にかかれば、それぞれで初診料・再診料が発生し、それぞれで検査が行われる。患者本人の負担は1割なので、重複していることに気づく動機がない。
そして日本はCT・MRIの人口当たり保有台数が世界最多水準だ。設備があれば使う。使えば収入になる。使っても患者は1割しか払わない。三拍子が揃っている。
| 国 | 受診の入口 | 効果 |
|---|---|---|
| 日本 | 完全フリーアクセス(紹介状不要) | 外来受診回数がOECD平均の約2倍 |
| イギリス | 家庭医(GP)への登録が前提。専門医は紹介制 | 不要な専門医受診・重複検査を抑制 |
| オランダ | 家庭医がゲートキーパー | 同上 |
| ドイツ | かかりつけ医制度を選択すると自己負担が軽減 | 経済的インセンティブで誘導 |
| フランス | 主治医を届け出ないと償還率が下がる | 経済的インセンティブで誘導 |
※制度の詳細と運用は国により異なる。
他国は「行きすぎ」を制度で抑えている。日本だけが、抑える仕組みを持たないまま1割負担を続けている。
2016年から、紹介状なしで大病院を受診すると特別料金(初診7,000円以上)が課されるようになった。方向性は正しいが、対象が大病院に限られる。
中小病院・診療所へのフリーアクセスは温存されたままだ。そして待合室を埋めているのは、まさにその中小の診療所である。
感情論で終わらせないために、実際に効果が見込める施策を整理する。
価格が3倍になれば、不要不急の受診は明確に減る。「安いから行っておく」がなくなるだけで、待合室の混雑は変わる。
ただし必要な受診まで抑制されるリスクがあるため、高額療養費制度の上限は維持し、真に困窮する層には資産も含めた判定で低い区分を残す設計が前提になる。
登録した医師を経由しないと自己負担が上がる、という経済的インセンティブなら、フランスやドイツが既に実施している。受診の自由を法で禁じるわけではないので、日本でも導入しやすい形だ。
定期処方だけのための通院は、オンライン診療で置き換えられる。物理的な待合室の混雑は直接的に減る。
だが日本のオンライン診療の普及は欧米より10年以上遅れている。理由は技術ではなく、対面診療を守りたい業界側の抵抗だ。
⇒医師会がガンだ。既得権益団体が日本から吸い上げてる金を試算した
病院の待合室が老人で埋まる光景は、悪しき制度設計の帰結だ。1割負担・フリーアクセス・時間コストゼロという3条件が揃えば、誰でも同じように行動する。
75歳以上の一人当たり医療費は約90〜95万円。現役世代(約16万円)の約6倍
それでも窓口負担は原則1割。現役の3割に対して3分の1
後期高齢者医療の財源のうち本人保険料は10%。残り90%は税と現役世代の保険料
現役世代から高齢者医療・介護への移転は年間16〜17兆円(年収500万で年11〜13.5万円)
日本の高齢者自己負担はOECD中でも最低水準。米20%・独10〜20%・韓20〜60%
是正の方向は年齢ではなく所得と資産で負担割合を決めること
ムカつくのは正常な反応だ。自分の負担は自分で制度的に削りつつ、老人に怒りを向けろ。
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