人口の3割が医療費の6割を使う——この配分は妥当か

「高齢者は病気になりやすいのだから医療費が多いのは当然」。これは正しい。だが議論を止める理由にはならない。

問われるべきは2点だ。①その医療は本当に効果があるのか ②その費用を誰が払うべきなのか。日本はこの2つをどちらも検証しないまま、現役世代から取ることで帳尻を合わせてきた。

「効果があるか」を検証しない医療

日本の医療制度は出来高払いが基本だ。診療行為をすればするほど医療機関の収入が増える。検査を増やし、薬を出し、通院回数を増やすことに経済的合理性がある構造になっている。

その結果が、外来受診回数OECD平均の約2倍、CT・MRI保有台数が世界最多水準という日本の姿だ。設備があれば使う。使えば収入になる。費用対効果の検証はほぼ機能していない。

終末期医療という最大の支出

生涯医療費の約40%が人生最後の1〜2年に集中する。つまり医療費の最大の塊は「治すための医療」ではなく「終わりを引き延ばすための医療」だ。

1回の入院で数百万円になることも珍しくない。胃ろう、人工呼吸器、点滴による栄養管理——本人の意思確認が取れないまま、家族の希望と医療機関の判断で継続されるケースが多い。

この費用は誰が払うのか。本人ではない。1割負担かつ高額療養費の上限があるので、本人が払う額はごくわずかだ。残りは税金と現役世代の保険料である。

日本の国民医療費 約47兆円の配分人口の約29%が医療費の約6割を使っている日本の国民医療費 約47兆円の配分人口の約29%が医療費の約6割を使っている約6割約4割国民医療費に占める割合(概算)65歳以上(人口比 約29%)約6割64歳以下(人口比 約71%)約4割高齢者は病気が多いという事実は前提。問題はその費用の負担者が本人ではないこと
人口3割の高齢者が医療費の6割を消費

 

 

薬漬けという名の浪費——多剤処方と残薬

医療費の中で見過ごされているのが薬剤費だ。約25〜30%を占める巨大な塊である。

月10〜20種類の薬という異常

高齢者は複数の慢性疾患を抱え、複数の診療科にかかる。内科で降圧剤、整形外科で鎮痛剤、眼科で点眼薬、精神科で睡眠薬——各科がそれぞれ処方するため、合計すると膨大な数になる。

これをポリファーマシー(多剤併用)と呼ぶ。薬同士の相互作用で副作用が増え、その副作用を抑えるためにまた薬が出るという悪循環が知られている。医学的にも問題だが、費用の面でも明確な無駄だ。

飲まれずに捨てられる薬

処方された薬が飲みきれずに家庭に滞留する「残薬」は、年間数百億円規模と推計されている。買われて、配られて、捨てられる。その全額が保険料と税金から出ている。

ジェネリック医薬品の使用率も、政府が目標を掲げてようやく8割前後まで来た段階だ。逆に言えば、長年にわたり割高な先発品に無駄な金を払い続けていたということである。

医療費の内訳と削減余地(概算)
費目医療費に占める割合削減余地
入院費用約40〜50%終末期医療の在り方の見直し
薬剤費約25〜30%多剤処方の適正化・ジェネリック徹底で10〜20%削減可能
外来費用約30〜35%窓口負担引き上げによる受診適正化
その他

※割合は集計方法により重複・変動する。傾向を示す概算。

 

 

 

「老人に金をかけすぎ」を国際比較で確かめる

感覚ではなく比較で確かめよう。日本は高齢者向け給付に偏り、現役世代向け給付が異常に薄い国である。

社会保障給付費の使われ方(2024年度・約138兆円)年金・医療・介護で大半を占め、現役世代向けは薄い社会保障給付費の使われ方(2024年度・約138兆円)年金・医療・介護で大半を占め、現役世代向けは薄い年金約60兆円医療約43兆円介護約13兆円その他(子育て支援等を含む)約22兆円年金・医療・介護の3本柱で約116兆円。給付の大半が高齢者に向かう構造
社会保障給付費138兆円の内訳

 

高負担・低給付という最悪のゾーン

日本の国民負担率は46.2%(2025年度)。フランス(68.1%)やスウェーデンほどではないが、アメリカ(36.4%)より明確に重い。問題は、負担が中〜高水準なのに、現役世代が受け取る給付が先進国最低クラスだという点だ。

欧州の高負担国は、その代わりに教育無償化・住宅補助・充実した育児支援を現役世代に返している。日本は取るだけ取って、高齢者に配って終わりだ。

教育への公的支出はGDP比4.0%でOECD平均(4.9%)を下回り、高等教育に至っては約0.5%とOECD平均の半分以下。過去に138兆円、未来に雀の涙。これが日本の賭け方である。

 

金の使い道を変えろ!医療=治療であって延命は医療ではない

ここで必ず「老人を見殺しにするのか」という反論が来る。誰もそんなことは言っていない。言っているのは配分の是正であって、廃止ではない。

医療費配分の是正——具体的な要求

高齢者の窓口負担を原則3割へ——現役世代と同じ負担へ

終末期医療の在り方を国民的に議論する——医療=治療であって延命は医療ではない

多剤処方の適正化・ジェネリック義務化——薬剤費10〜20%削減

浮いた財源を現役世代・子育て・教育へ回す——原資を作る側への再投資

 

④が本質だ。稼ぐ側に投資しなければ、配る原資そのものが消える。現役世代を絞り尽くした先にあるのは、老人も一緒に沈む未来でしかない。

優秀な若者に金を回せ。老人支援に使う金は全部ドブに捨ててる

 

なぜ日本の医療費は下がらないのか——出来高払いと病床数

医療費が膨らむ原因は高齢化だけではない。供給側の構造にも明確な理由がある。

出来高払いという増える仕組み

日本の診療報酬は基本的に出来高払いだ。診察をすれば診察料、検査をすれば検査料、薬を出せば処方料が加算される。やればやるほど医療機関の収入が増える。

対して欧米では包括払い(DPC/DRG)の比重が高い。疾患ごとに定額が決まっており、過剰な検査や投薬をすれば医療機関の持ち出しになる。無駄を減らす経済的動機が働く。

日本も急性期入院ではDPCが導入されているが、外来は依然として出来高払いが中心だ。そして外来こそが高齢者の受診が集中する領域である。

世界一の病床数

日本は人口当たり病床数がOECD中で最多水準にある。ベッドがあれば埋めなければ経営が成り立たない。その結果、平均在院日数も長くなる。

後期高齢者の平均入院日数は現役世代の約3〜4倍だ。医学的必要性だけでなく、受け皿がないから退院できない「社会的入院」が相当数含まれると指摘されている。

医療費を押し上げる供給側の要因
要因日本の状況諸外国との比較
診療報酬の方式外来は出来高払いが中心欧米は包括払い(DRG)の比重が高い
病床数人口当たりOECD最多水準欧米は大幅に少ない
平均在院日数長い。社会的入院が相当数欧米は短期化が進む
CT・MRI台数人口当たり世界最多水準設備投資の回収圧力が検査を増やす
受診の入口フリーアクセス(紹介状不要)家庭医のゲートキーパー制が主流

 

需要側(1割負担)も供給側(出来高払い・過剰病床)も、どちらも「増やす方向」に設計されている。これで医療費が下がるはずがない。

 

削減に成功した国は何をしたか——ドイツとスウェーデンの事例

「高齢化すれば医療費が増えるのは避けられない」と言われる。だが、増加を抑制した国は実在する。

ドイツ:参照価格制度と包括払い

ドイツは薬剤について参照価格制度を導入している。同じ効能の薬には上限価格が設定され、それを超える分は患者の自己負担になる。結果、安価なジェネリックへの移行が自動的に進む。

入院についてもDRGによる包括払いを全面導入し、在院日数の短縮を実現した。高齢者本人も10〜20%の自己負担を負っている。

スウェーデン:定額負担と年間上限

スウェーデンは受診1回あたり定額負担(約1,500〜2,000円)を課し、年間の自己負担に上限を設けている。「1回いくら」が明確なので、不要不急の受診が抑制される。

同時に上限があるため、重い病気の人が負担で潰れることもない。抑制とセーフティネットを両立させた設計だ。

日本と諸外国の医療費コントロール日本だけが「抑制する仕組み」を持っていない日本と諸外国の医療費コントロール日本だけが「抑制する仕組み」を持っていないドイツ・スウェーデン等日本高齢者の自己負担10〜20%/定額制原則1割受診の入口家庭医のゲートキーパー制フリーアクセス入院の支払方式DRG包括払いが中心外来は出来高払いが中心薬剤価格参照価格制度で上限設定個別に薬価収載結果医療費の伸びを抑制抑制手段が乏しい高齢化は各国共通の条件。差がつくのは制度設計である
抑制の仕組みを持たないのは日本だけ

 

つまり「高齢化だから仕方ない」は嘘だ。他国は高齢化しながら抑制している。日本がやっていないだけである。

なぜ日本は導入できないのか

理由は既得権益だ。包括払いの拡大は医療機関の収入を減らす。参照価格制度は製薬会社の利益を削る。病床削減は病院経営を直撃する。

そしてそれぞれに強力な業界団体があり、政治的な影響力を持っている。患者側には団体がない。だから患者側の負担だけが静かに増える。

医師会がガンだ。既得権益団体が日本から吸い上げてる金を試算した

 

まとめ——この記事の要点

人口の約29%が医療費の約6割を使い、その本人負担は1割。日本の医療費が下がらない理由は、需要側も供給側も「増やす方向」に設計されているからだ。

医療費削減の余地——どこを削れば効くか高齢化を理由にせず、制度で抑制した場合の目安医療費削減の余地——どこを削れば効くか高齢化を理由にせず、制度で抑制した場合の目安高齢者の窓口負担2〜3割へ年2〜3兆円多剤処方の適正化・ジェネリック徹底薬剤費の10〜20%重複受診・重複検査の抑制年1兆円規模(参考)現役世代→高齢者医療への移転年13.5兆円3施策で年4〜5兆円規模。児童手当(年約3兆円)を1.5倍にできる金額に相当する
制度改革で年4〜5兆円の削減余地

 

この記事の要点

国民医療費は年間約47〜48兆円、うち約6割が65歳以上に使われている

生涯医療費の約40%が最後の1〜2年に集中する

薬剤費は医療費の約25〜30%。多剤処方と残薬が構造的な無駄を生む

外来は出来高払い、病床数とCT・MRIは世界最多水準——供給側も増やす方向

ドイツ・スウェーデンは包括払い・参照価格・定額負担で伸びを抑制している

日本の社会保障給付費138兆円に対し、高等教育への公的支出はGDP比約0.5%

 

「高齢化だから仕方ない」は嘘だ。他国は高齢化しながら抑制している。日本がやっていないだけである。やらない理由は既得権益であって、技術的な困難ではない。