優遇制度を一つずつ並べる

感情論を避けるため、まず事実を列挙する。

高齢者優遇と現役世代の扱い
項目高齢者現役世代
医療費の窓口負担原則1割(一部2割・3割)3割
介護保険65歳以上は原因を問わず利用可40〜64歳は16種の特定疾病のみ(実質使えない)
年金払った額を上回る受給が可能だった世代がある払い損が確定的
住民税非課税の優遇資産があっても所得が低ければ対象働いている限り原則対象外
高額療養費の上限所得区分により月8,000円程度で頭打ちの区分あり所得に応じ数万円〜
公共交通(自治体による)シルバーパス等で実質無料・割引全額自己負担
選挙での影響力有権者の約35%・投票率70〜75%30〜49歳の投票率は40〜55%

※制度の詳細は自治体・保険者・所得区分により異なる。傾向を示す整理。

 

この表を見て「高齢者は恵まれすぎている」と感じたなら、それは印象ではなく制度の読み取りだ。

 

 

最大の優遇は「年金の払い得」だった

個別の制度より遥かに大きいのが年金の世代間格差だ。金額の桁が違う。

世代別・年金の払い損と受取超過払った保険料に対して受け取れる年金額の比較(試算)世代別・年金の払い損と受取超過払った保険料に対して受け取れる年金額の比較(試算)生涯の保険料負担生涯の年金受取団塊世代(1947〜49年生まれ)約2,000〜2,500万円約3,500〜4,000万円以上バブル世代(1965〜70年生まれ)約2,500〜3,000万円約2,800〜3,200万円氷河期世代(1970〜83年生まれ)約3,000〜3,500万円約2,500〜2,800万円ゆとり・Z世代(1987年〜)約3,500〜4,500万円約2,000〜2,500万円団塊は数千万円のプラス、Z世代は1,000〜2,000万円のマイナス。同じ制度でこの差が出る
団塊は受取超過、若い世代ほど払い損

 

同じ制度に加入して、生まれた年だけで数千万円の差がつく。これを不公平と呼ばずに何と呼ぶのか。

なぜこうなるのか——賦課方式という仕組み

日本の公的年金は積立方式ではなく賦課方式だ。今の現役世代が払った保険料が、そのまま今の高齢者の年金として支払われる。自分のために積み立てているわけではない。

この方式は人口が増え続ける前提でのみ成立する。支え手が増えていく限り、先に受給する世代ほど得をする。逆に支え手が減れば、後の世代ほど損をする。

実際、高齢者1人を支える現役世代の人数は1965年の9.1人から2024年の2.1人へ激減した。2040年には1.6人になる。

高齢者1人を支える現役世代の人数1965年は9.1人の「胴上げ型」。2040年には1.6人の「肩車型」になる高齢者1人を支える現役世代の人数1965年は9.1人の「胴上げ型」。2040年には1.6人の「肩車型」になる9.1人1965年5.1人1990年2.1人2024年1.6人2040年(推計)先に受給した世代ほど支え手が多かった。制度の性質上、あとの世代ほど損をする
支え手は55年で約6分の1に

 

 

なぜ是正されないのか——シルバー民主主義

これだけ明白な不公平が、なぜ何十年も放置されているのか。答えは票の数だ。

65歳以上は有権者の約35%を占め、投票率は70〜75%。一方18〜29歳は有権者の約11%で投票率30〜35%。実際に投じられる票の重みで見れば、その差はさらに開く。

政治家にとって高齢者向け給付の削減は、票を失う直接的な行為だ。合理的に行動する政治家ほど、高齢者優遇を維持する。これがシルバー民主主義と呼ばれる現象である。

「若者が投票しないのが悪い」という反論について

これは部分的に正しい。だが完全ではない。人口構成そのものが偏っているため、若者が投票率100%を達成しても票数で勝てない。

65歳以上 約3,800万人に対し、18〜29歳は約1,200万人。3倍の差がある。「投票に行け」は正しいアドバイスだが、それだけで解決する規模ではない。

30〜49歳(約3,200万人)を含めても、投票率の差を考えると高齢層の影響力が上回る。構造的に、多数決では現役世代が勝てない設計になっている。

 

では現役世代はどうすべきか

制度が変わるのを待つ戦略は、期待値が低い。変わるとしても、あなたが受益者になる頃には原資が尽きている可能性が高い。

現役世代が取るべき二正面作戦

制度改革を要求し続ける——高齢者の窓口負担引き上げ、資産に応じた負担設計、年金の給付水準見直し。投票と発信をやめない

並行して自分の負担を制度的に減らす——社会保険料は働き方の設計で年70万円規模で変わる。iDeCo・NISAで税制優遇を使い倒す

「いずれ自分も高齢者になるから」で思考停止しない——あなたが高齢者になる頃、今の水準の給付は残っていない

 

②を軽視する人が多いが、制度が変わらないことを前提に置くなら、実は②のほうが確実にリターンが出る。

社会保険料をブッちぎりで下げる5つの方法【マイクロ法人・iDeCo・合法】

 

住民税非課税世帯という最大の抜け道

高齢者優遇の中で、最も知られていないのに影響が大きいのが住民税非課税世帯という区分だ。

非課税世帯になると何が変わるのか

住民税非課税世帯に該当すると、医療・介護の自己負担上限が大幅に下がり、各種の給付金の対象になり、保険料も減免される。事実上のフリーパスに近い。

住民税非課税世帯が受けられる主な優遇
項目内容
高額療養費の上限月8,000円程度で頭打ちの区分がある(一般区分より大幅に低い)
介護保険料所得段階に応じて大幅に減額
介護サービスの自己負担上限一般区分より低い上限が適用
各種給付金物価高対策等の臨時給付金の対象になることが多い
入院時の食費負担額が軽減される
予防接種等自治体により無料または減免

※自治体・年度により制度は異なる。

 

資産があっても非課税世帯になれる

ここが決定的な問題だ。住民税は「所得」に対して課される。資産には課されない。

つまり金融資産が数千万円あっても、年金収入が一定額以下であれば住民税非課税世帯になれる。持ち家があっても同じだ。

高齢者世帯の金融資産保有額は、現役世代より明確に多い。資産を持つ層が、所得が低いという理由で最も手厚い優遇を受けている。

一方、働いて年収400万円を稼ぐ現役世代は、資産がゼロでも当然に課税され、あらゆる優遇の対象外だ。フローで判定してストックを見ない制度が、この逆転を生んでいる。

解決策はマイナンバーとの連携

技術的には難しくない。金融資産をマイナンバーに紐づけ、負担判定にストックを組み込めばいい。すでに預貯金口座へのマイナンバー付番は制度として存在する。

進まない理由は技術ではなく政治だ。資産を捕捉されて困る層が、投票率70〜75%の多数派である。

 

ばらまきの歴史——高齢者向け給付金という票の買い方

選挙のたびに高齢者向けの給付が繰り返されてきた。その都度、財源は将来世代への借金だ。

典型的なパターン

「物価高対策」「生活支援」といった名目で、住民税非課税世帯を中心に数万円の給付金が配られる。対象の多くは高齢者世帯だ。

一方、働いて課税されている現役世代は対象外になることが多い。物価高の影響は現役世代も受けているにもかかわらず、である。

そして財源は国債だ。配った金は、これから働く世代が返す。票を得るのは配った政治家で、請求書は次の世代に回る。

2025年度 国家予算の配分(一般会計)過去への支出と借金返済で予算の6割近くが消える2025年度 国家予算の配分(一般会計)過去への支出と借金返済で予算の6割近くが消える社会保障関係費38.3兆円(33.1%)国債費(借金返済)28.2兆円(24.4%)地方交付税19.1兆円(16.5%)防衛費8.7兆円(7.5%)公共事業費6.2兆円(5.4%)科学技術振興費約1.4兆円(1.2%)社会保障費は科学技術振興費の約27倍。未来より過去に27倍を賭けている
社会保障38.3兆円 vs 科学技術1.4兆円

 

なぜ現役世代向けの給付は増えないのか

答えは投票率だ。18〜29歳の投票率は30〜35%、30〜49歳でも40〜55%。政治的に無視しても選挙結果に影響が小さい。

教育への公的支出はGDP比4.0%でOECD平均(4.9%)以下、高等教育に至っては約0.5%でOECD平均の半分。子育て支援も国際的に薄い。

票にならないものには金を出さない。これが日本の財政配分を決めている原理である。

優秀な若者に金を回せ。老人支援に使う金は全部ドブに捨ててる

 

よくある質問

この記事のテーマについて、検索でよく問われる疑問に答えておく。

困窮している高齢者もいるのでは?

もちろんいます。批判しているのは、制度が「困窮しているか」ではなく「歳を取っているか」で優遇を配っている点です。所得と資産で判定すれば、困窮層は今より手厚く守れます。

住民税非課税世帯は本当に資産があっても該当しますか?

住民税は所得に課される税であり、資産には課されません。したがって金融資産や持ち家があっても、年金収入が一定額以下であれば非課税世帯に該当しえます。

年金の払い損はどれくらいですか?

試算では、団塊世代が数千万円の受取超過であるのに対し、現在の20〜30代は1,000〜2,000万円の払い損とされています。差し引き3,000〜4,000万円の格差です。

若者が投票すれば変わりますか?

改善はしますが、それだけでは足りません。65歳以上が約3,800万人に対し18〜29歳は約1,200万人で、3倍の人数差があります。投票率100%でも票数で届きません。

シルバー民主主義は他国にもありますか?

高齢化した先進国には共通の課題ですが、日本は高齢化率が突出して高く、かつ高齢層の投票率が高いため影響が特に大きくなっています。

現役世代に今できることは?

制度改革の要求と並行して、社会保険料の圧縮とiDeCo・NISAの活用で自分の負担を制度的に減らすことです。後者のほうが確実にリターンが出ます。

 

まとめ——この記事の要点

高齢者優遇は個別の制度を並べれば一目瞭然だ。そして最大の優遇は年金の払い得であり、最も知られていない抜け道が住民税非課税世帯という区分である。

高齢者優遇の規模——最大は年金の払い得生涯ベースで見た世代間の金額差(試算)高齢者優遇の規模——最大は年金の払い得生涯ベースで見た世代間の金額差(試算)団塊世代の年金受取超過+1,000〜2,000万円Z世代の年金払い損▲1,000〜2,000万円団塊とZ世代の実質格差3,000〜4,000万円(参考)医療費の窓口負担差1割 vs 3割個別の優遇制度より、年金の世代間格差のほうが桁違いに大きい
最大の優遇は年金——世代差は3,000〜4,000万円

 

この記事の要点

医療費の窓口負担は高齢者1割/現役3割

介護保険は40〜64歳は払うだけで原則使えない

年金は団塊が数千万円の受取超過、Z世代は1,000〜2,000万円の払い損

住民税非課税世帯は資産があっても該当しうる——フローで判定しストックを見ない

65歳以上は有権者の約35%・投票率70〜75%。構造的に多数決で勝てない

是正の方向は年齢ではなく所得と資産で判定すること

 

「高齢者は可哀想」という前提を疑うところから始めるべきだ。制度が守っているのは困窮者ではなく、年齢という属性である。