なぜ生年で損得が変わるのか——賦課方式という仕組み

多くの人が誤解している。公的年金は貯金ではない。

積立方式ではなく賦課方式

積立方式なら、自分が払った保険料が自分の口座に積み上がり、老後に取り崩す。日本の公的年金はそうなっていない。

賦課方式では、今月徴収された保険料が、今月の高齢者の年金として今月支払われる。あなたの「年金積立」はどこにも存在しない。あるのは仕送りの記録だけだ。

人口が増える前提で作られた制度

この方式は支え手が増え続ける限り、全員が得をする。先に受給を始めた世代は、少ない保険料負担で多い受給を得られる。後から入る人が増えるからだ。

逆に支え手が減れば、後の世代ほど損をする。これは制度が壊れているのではなく、前提が崩れただけである。

高齢者1人を支える現役世代の人数先に受給した世代ほど、支え手が多かった高齢者1人を支える現役世代の人数先に受給した世代ほど、支え手が多かった9.1人1965年5.1人1990年2.1人2024年1.6人2040年(推計)9.1人で1人を支えた時代と、1.6人で1人を支える時代。同じ制度で結果が違うのは当然
支え手は55年で約6分の1に

 

団塊世代が受給を始めた頃、支え手は今よりずっと多かった。彼らがずるいというより、制度が彼らに有利な時期に当たっただけとも言える。

ただし——その構造が持続不可能だと分かった後も、給付水準の見直しを政治的に拒み続けたのは彼ら自身だ。ここは運ではなく選択である。

 

所得代替率という指標で見るとさらに露骨

所得代替率とは、現役時代の手取り収入に対して年金がどれだけの割合になるかを示す指標だ。

世代別の所得代替率の見通し
世代所得代替率(目安)現役時年収500万円の場合の年金額
現在の高齢者(2025年時点)約61〜62%約305〜310万円/年
現在の50代(2035〜40年頃受給開始)約55〜58%約275〜290万円/年
現在の40代(2045〜50年頃受給開始)約50〜54%約250〜270万円/年
現在の30代(2055〜60年頃受給開始)約46〜50%(最低ライン)約230〜250万円/年

※将来の代替率は経済前提により変動する。政府は50%維持を目標としているが、達成には条件がある。

 

同じ年収でも、生まれた年が20年違うだけで年間70万円以上の差が出る。20年受給すれば1,400万円の差だ。

マクロ経済スライドという実質的な減額装置

2004年の年金改正で導入されたマクロ経済スライドは、物価や賃金が上がっても、年金の伸びをそれ以下に抑える仕組みだ。実質的な減額装置である。

ただしこの仕組みには弱点があり、デフレ下では発動が抑制されるルールになっていた。結果として本来行うべき調整が積み残され、その分の負担が後の世代に回された。

 

 

「それでも払わないと損」は本当か

払い損だと聞くと「では払わない」という発想が出るが、これは基本的に悪手だ。

厚生年金は給与から強制徴収されるため、そもそも選択の余地がない。国民年金を未納にした場合は、障害年金・遺族年金の受給資格まで失う。老齢年金の損得だけで判断すると、保険としての機能を丸ごと捨てることになる。

つまり「払わない」ではなく「払う額を制度的に減らす」が正解である。

払い損世代が取るべき対応
手段内容効果
iDeCo掛金が全額所得控除。運用益も非課税年6〜15万円の税軽減+自分の資産として積み上がる
新NISA生涯1,800万円まで運用益非課税公的年金に依存しない原資を作る
マイクロ法人役員報酬を最小設計し社会保険料を圧縮年70万円規模の圧縮(要専門家相談)
繰下げ受給の検討受給開始を遅らせると受給額が増額長生きする前提なら有利。健康状態次第

※制度は改正されうる。実行前に最新情報と専門家の確認を。

 

公的年金を「もらえたらラッキーな保険」として扱い、生活の柱は自分で作る。払い損が確定している世代にとって、これが唯一まともな戦略だ。

 

なぜ制度は是正されないのか

答えは票の数だ。給付水準の引き下げは、投票率70〜75%の65歳以上を直撃する。

65歳以上は有権者の約35%、約3,800万人。18〜29歳は約11%、約1,200万人で投票率は30〜35%。実際に投じられる票では3倍以上の開きがある。

ヨーロッパでは年金改革が政権を揺るがす争点になり、大規模なストライキが起きる。日本では静かに保険料が上がるだけで、誰も街頭に出ない。抵抗がないから、上げる側にとっては最も楽な財源になっている。

団塊の逃げ切りがずるすぎる。何を残して去っていったのか【決算書】

 

マクロ経済スライドという静かな減額装置

年金が「破綻する」と言われることがある。だが実際に用意されているのは、破綻ではなく静かな目減りの仕組みだ。

物価が上がっても年金は同じだけ上がらない

2004年の年金改正で導入されたマクロ経済スライドは、物価や賃金の伸びから「スライド調整率」を差し引いて年金額を改定する仕組みだ。

調整率は公的年金被保険者数の減少率平均余命の伸びを反映する。支え手が減り、寿命が延びるほど、年金の伸びは抑えられる。

物価が2%上がっても年金は1%しか上がらない。差の1%分、実質的な購買力が毎年削られていく。これが数十年続く。

デフレ下では発動が抑制された

この仕組みには重大な弱点があった。物価が下がる局面では、名目額を下げないようにする配慮が働き、調整が十分に発動しなかった。

結果、本来行うべき調整が積み残された。2018年からキャリーオーバー制度が導入され未実施分を繰り越せるようになったが、積み残した期間の分は、後の世代が負担することになる。

マクロ経済スライドの仕組みと影響
項目内容
導入2004年の年金改正
仕組み物価・賃金の伸びから調整率を差し引いて改定
調整率の要素被保険者数の減少率+平均余命の伸び
効果実質的な年金額が毎年少しずつ目減りする
弱点デフレ下で発動が抑制され、調整が積み残された
影響を受ける世代これから受給する世代ほど大きい

 

破綻はしない。ただし受け取る額の実質価値は確実に下がる。制度が続くことと、生活できる額がもらえることは別問題だ。

「破綻する」より現実的なシナリオ支給停止は政治的に不可能。実際に起きるのはこれ「破綻する」より現実的なシナリオ支給停止は政治的に不可能。実際に起きるのはこれよく語られる不安実際に起きること年金がゼロになる政治的に不可能(有権者の35%)支給開始年齢の引き上げ制度が崩壊する崩壊はしないマクロ経済スライドで実質減額いつか破綻する破綻は起きない保険料率のさらなる引き上げ影響を受ける世代全世代これから受給する世代ほど大きい気づきやすさ破綻なら全員が同時に気づくじわじわなので誰も気づかない全員が同時に気づく破綻より、誰も気づかない目減りのほうが実害は大きい
破綻はしない。静かに目減りする

 

 

「年金は破綻する」より怖い、じわじわ目減りするシナリオ

「年金は破綻するから払うだけ無駄」という主張をよく見る。これは半分正しくて、半分危険な誤りだ。

破綻はしない。政治的に不可能だから

年金の支給停止は、有権者の35%を占め投票率70〜75%の層を直撃する。いかなる政権もそれはできない。

したがって現実的なシナリオは破綻ではなく、①支給開始年齢の引き上げ ②マクロ経済スライドによる実質減額 ③保険料率のさらなる引き上げの組み合わせだ。

なぜ「破綻する」より怖いのか

破綻ならば全員が同時に気づき、政治問題になる。だがじわじわ目減りするなら、誰も声を上げないまま実質価値だけが失われていく。

国民負担率が55年で24.3%から46.2%へ倍増した過程がまさにそれだ。一度も大論争にならないまま、静かに倍になった。

現実的に起こること——破綻ではなく3つの調整支給停止は政治的に不可能。代わりにこれが起きる現実的に起こること——破綻ではなく3つの調整支給停止は政治的に不可能。代わりにこれが起きる支給開始年齢の引き上げ65歳→68歳・70歳の議論マクロ経済スライドによる実質減額所得代替率 61〜62%→46〜50%保険料率のさらなる引き上げ2040年に必要保険料107兆円(参考)制度の完全な破綻政治的に不可能全員が同時に気づく破綻より、誰も気づかない目減りのほうが実害は大きい
破綻ではなく、3つの調整が静かに進む

 

ではどう構えるか

公的年金を「あてにできる収入」ではなく「もらえたら助かる保険」として扱う。これが払い損世代の唯一まともな前提だ。

未納は悪手だ。障害年金・遺族年金の受給資格まで失う。払いながら、同時に自分の原資を別に作る。

払い損世代の実務的な対応
手段内容効果
iDeCo掛金が全額所得控除、運用益も非課税年6〜15万円の税軽減+自分の資産として積み上がる
新NISA生涯1,800万円まで運用益非課税公的年金に依存しない原資
マイクロ法人役員報酬を最小設計社会保険料を年70万円規模で圧縮
繰下げ受給受給開始を遅らせると増額長生き前提なら有利。健康状態次第
付加年金・小規模企業共済自営業者向けの上乗せ制度低コストで受給額を増やせる

※制度は改正されうる。実行前に最新情報と専門家の確認を。

 

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よくある質問

この記事のテーマについて、検索でよく問われる疑問に答えておく。

年金は破綻しますか?

破綻は政治的に不可能です。有権者の35%を占め投票率70〜75%の層を直撃するためです。現実に起きるのは支給開始年齢の引き上げ、実質減額、保険料率の引き上げの組み合わせです。

払わないほうが得ではないですか?

悪手です。厚生年金は給与から強制徴収されるため選択の余地がなく、国民年金の未納は障害年金・遺族年金の受給資格まで失います。

なぜ世代で損得が変わるのですか?

賦課方式だからです。今の現役の保険料が今の高齢者の年金として支払われるため、支え手が多い時期に受給を始めた世代ほど得をします。

マクロ経済スライドとは何ですか?

物価や賃金の伸びから調整率を差し引いて年金額を改定する仕組みです。実質的な減額装置で、これから受給する世代ほど影響が大きくなります。

所得代替率はどれくらい下がりますか?

現在の高齢者が約61〜62%であるのに対し、現在の30代は約46〜50%が見込まれています。同じ年収でも年間70万円以上の差になります。

払い損世代は何をすべきですか?

公的年金を「もらえたら助かる保険」として扱い、生活の柱は自分で作ることです。iDeCo・NISAの活用と、社会保険料そのものの制度的な圧縮が有効です。

 

まとめ——この記事の要点

厚生年金の損得が生年で決まるのは制度の欠陥ではなく仕様だ。賦課方式は支え手が増える前提でのみ成立し、その前提は既に崩れている。

所得代替率の見通し——世代が下るほど下がる現役時代の手取りに対して年金がどれだけの割合になるか所得代替率の見通し——世代が下るほど下がる現役時代の手取りに対して年金がどれだけの割合になるか約61〜62%現在の高齢者約55〜58%現在の50代約50〜54%現在の40代約46〜50%現在の30代同じ年収でも、生まれた年が20年違えば年間70万円以上の差が出る
所得代替率は世代が下るほど低下する

 

この記事の要点

団塊世代は数千万円の受取超過、Z世代は1,000〜2,000万円の払い損

原因は賦課方式——積み立てではなく今月の高齢者への仕送り

支え手は1965年 9.1人 → 2040年 1.6人

所得代替率は約61〜62% → 約46〜50%へ低下する見込み

破綻はしない。代わりに支給年齢引き上げ・実質減額・保険料引き上げが進む

対応は払いながら、自分の原資を別に作る(iDeCo・NISA・社会保険料の圧縮)

 

未納は悪手だ。「払わない」ではなく「払う額を制度的に減らす」が正解である。公的年金はあてにする収入ではなく、もらえたら助かる保険として扱え。